ローマの街角。
T字路に路上駐車の車があってバスが曲がりきれない。
バスはけたたましくクラクションを鳴らす。
路駐の運転手は現れない。
と、通行人が3~4人集まって来てバスを誘導しはじめ、めでたく問題は解決。
皆、何事もなかったかのごとく、自分の生活に戻って行く。
5分に満たない出来事だった。
大通りに面した間口の狭い総菜屋。
とりあえずのいすとテーブルが置いてある。
昼飯にパスタを食った。結構いけた。
翌日はソースを替えてまた食った。
三日目、パスタの量がやけに増えていた。
狭い路地に車が入ってくる。
壁に張り付いてやりすごしたのに、すぐ目の前で止まりやがった。
助手席のドアが開く。
乗っていた老婆が「手を貸せ」と。
彼女を引っ張りだすと運転手は、おれに何かを指示し、そして「ドアを閉めろ」と。
バム。・・・行っちまった。
老婆は「あたしのうちはそこ。その玄関までエスコートしなさい。」
と、多分そう言った。
仰せの通りにさせていただく。
「グラッツェ、ミーレ」。
彼女のこれまでの半生をかけて作り上げてきたような、とびきり級の笑顔だった。
この国は、人が治めている。
人同士をつなげる普遍の理念がある。
そんな気がした。